※ 本作は、とろとろ 氏 「千蟲姫エリヴィラ」への二次創作です。 |
「こんなところにいたの」
ようやく沙織は少年を発見した。
でも、なんだか保健室にいたときよりも具合が悪そうだ。少年に近寄ると、彼がビクッと体を震わせているのが判った。こんな状態では、とても一人で帰ることは無理だろう。手を貸して何とか立たせ、少年の家まで送っていくことにした。
「っ ぅ」
一歩踏み出す毎に、少年は呻き声を押し殺して辛そうにしていた。よほど具合が悪いに違いない。沙織は、しっかりと少年を支えた。隣で支えている沙織には見えなかったが、何故か少年は余計辛そうだった。
華奢なようでいて、少年の体重は結構有った。しかし、こんなことは少年の友達に任せてしまえとか、タクシーに乗せてしまえば簡単となのにとは、露ほども思わなかった。沙織は少年の無事を自分自身の目でしっかり確かめたかった。
少年にとっては拷問のような行程だった。
沙織と由香が部屋を去っても、火照った身体から官能の毒はなかなか抜けなかった。既にエリヴィラとリル・マンティスもいなくなっていたが、なんとか身動き出来るようになったのはそれから更に暫く立ってからだった。ようやく歩いたものの、少しの距離を歩くだけで、再び座り込まざるを得なかった。
そんな状態で、沙織に見つけられてしまった。
ずっとお預けを喰らわされていたご馳走が、今目の前にある。いや、正確には、腕の中とも言えるほどの距離にいる。絡められている沙織の腕は、少年を支えてくれているだけだというのに、燻っていた官能が直ぐに沸騰してしまう。掛けられる気遣いの言葉や、心配する沙織の仕草さえも、少年にとっては追い打ちとなった。
少年をこんな状態に追い込んだ張本人によって、逃げることもかなわず辺りを引き回されていた。
本来は、普段冷たい沙織がここまでしてくれることに感謝すべきなのだろう。でも、一歩毎に自爆しそうになる身体を抑えるので精一杯だった。何十分も連れられて歩いた気がするが、ようやく正門前のバス停に着いた。
バスにの入口で、辛うじて少年は理性を働かせることが出来た。沙織に背を向けるようにして満員のバスに乗り込む。この時間帯は通学ラッシュで超満員になる。乗車扉は、満員が解消される暫く先のバス停まで、開くことはない。沙織に面と向かい合ったまま、周囲から押しつぶされたらどうなるか、考えるまでも無かった。沙織の隣にいるだけでも、これだけ自分を抑えられないのだ。不可抗力とはいえ、沙織に抱きつくような形になれば自分は理性を働かせることも出来ずにおしまいだろう。
濁っていた頭を働かせることが出来た幸運に感謝しつつ、少年は早く安全な家に帰り着くことを願った。
しかし、運命の悪戯は少年を弄ぶつもりらしい。
身体が浮き上がるほど、激しい込み方だった。殆ど身体を動かす隙間が無い中、何とか上手く身体のぶつかり方が少ない隙間を探す。激しい揺れに、目の前の女生徒が角度を変えた為、その娘が誰なのか判った。少年に背を向けているものの、あの部屋で沙織を襲っていた少女、由香に間違いない。妖艶な雰囲気を纏い付けている官能的な身体のラインで、後ろ姿からでも、はっきりと判った。
幸い、少年にはまだ気づいていないようだ。沙織と一緒に居るところを見られたら、何が起こるか予想が付かなかった。ここは、じっと目立たないようにするに限る。ただ、更に少年の背後にいる沙織からは、少年の前など見えない。当然、そこに由香がいる事など、全く知らないだろう。
『ねぇ、まだ具合悪いの』
小さな声ではあるけれども、タイミング悪く沙織が尋ねてきた。流石にラッシュ時なので、囁くような声だ。しかし、少年が例え同じような囁き声であっても、沙織に返事をしたらどうなるか。人は背後の物音にはとても敏感だ。囁き声程度でも、絶対聞こえてしまうに違いない。少年は、沙織がこれ以上喋らないことを祈りつつ、頭だけを動かして合図を送った。
『お返事も出来ないぐらい具合悪いの』
合図には気づかなかったらしい。
背後から、耳を舐めるような距離で沙織が囁いている。一応この距離ならば、沙織の声が由香に聞かれる可能性は少ないかもしれない。しかし、少年が後の沙織にも聞こえるような声を出せば絶対由香に気付かれてしまう。なんとしても、声を出さずに後の沙織へ返事をする必要があった。ただ、沙織に対して後ろを見せている少年が身振りで諒解の合図を伝えるのは、どうしても無理があった。
『ねぇ、どうしたの』
焦れているような声で沙織が囁きかけてきた。これ以上はマズイ。いくら近距離の会話といえども、声の調子だけで周囲の人目を引きそうだ。少年は、やむなく最終手段に出た。
『!!』
なんとか通じたようだった。少年の捨て身の手段、物理的な会話の伝達がようやく成功したのだった。ちょっと気恥ずかしかったが、少年を支えてくれている沙織の手を、返事代わりに強く握りしめたのだった。
『・・・』
沙織の囁きは止まった。
でも。
沙織の手は、少年の手を離さなかった。握り替えしてきた沙織の手が、そのまま少年の手を包み込んだままだった。言い知れぬ震えが、その手から腕、肩へと身体に向かって這い上がってきた。
『クスッ。辛かったら言うのよ』
濡れたようなネットリした口調で沙織が耳元に囁いてくる。少年は、ふわりとしていながらも、ずっしりとした弾みが背中に当たっているのを強く意識した。少年の背に押しつけられた二つのそれが、弾力を誇示するように背中を這い回りだした。その甘い感触に全身が緊張する。痺れるような痛痒感が少年の手から背中へと抜けてゆく。沙織に散々舐められた少年の皮膚が、敏感に反応しだしていた。
『ねぇ?』
少年は努力して注意を、握られている手ではなく、沙織の言葉へと集中させた。
『どぅ?』
何が”どう”なのだろうか。沙織の手をどう思うかという事なのだろうか。少年の意識は、握られている手へと舞い戻った。
『まだ、気分悪いの?』
沙織は、純粋に少年の具合を心配してくれているのだった。独りよがりのつまらない妄想を抱いてしまった節操のなさを、少し恥じた。ただ、大丈夫だということを教えるためには、またしても沙織の手を握りしめなければならなかった。
『本当?』
沙織は執拗に尋ねてきた。まさか沙織は、手を握られたくてそんな質問ばかり繰り返しているのでは無かろうか。そんなちょっとした疑念が少年の頭を掠めた。ただ、沙織の手はすべすべしていて柔らかく、何度握りしめても気持ちよかった。
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