初版:2010/05/17
改定:2010/05/17
MEGAZONE WORLD - 小説 - ”淫魔”のキス

”淫魔”のキス


とある条件の下、止む無く淫魔とキスをした。

状況描写追加サンプルの淫魔(最初から正体を明かしている)版です。

///// 以下 α未満版 /////
「キス、もしかしてお嫌いですか」

そんなことは無い。むしろ目の前に差し出された唇にむしゃぶりつきたくなる衝動を堪えるのに 必死だった。綺麗なピンク色の唇がキスを誘うように差し出されていて、 まるでもぎたてのフルーツがタップリ水気を含んでいるように、唇の表面が生々しく輝いているのだ。 きっと果肉よりも柔らかく、そして唇の味は、溢れ出す新鮮な果汁よりも甘美に違いない。

「いいんですよ。お好きなだけ長くキスをなさっても」

後ろから甘く囁かれるその声に、心の中の躊躇いが単なる迷いへと塗り替えられてしまう。 背中にしがみ付いたメイドの身体。そこから暖かい体温が、肌に直接伝わってくるのだ。 ピッタリ押し付けられた、魅惑的な肢体。そのぬくもりが僅かに残った理性を 溶かすように包み込み、御し難い衝動のみが少年の精神に残った。

「もちろん、舌を入れても構いませんわよ」

少し擦れた様な声が、至近距離から耳に吹き込まれるようにして囁かれる。 股間を直撃するような色っぽいメイドの声に、益々陰茎が硬くなってしまう。 硬くなれば硬くなるほど、悩ましいその声は少年の股間に絡みつくように 甘い疼きを注ぎ込んでくる。

「さあ、早くキスを。さもないと結婚式が始まってしまいますわよ」

このまま彼女達と部屋に閉じ込められるか、目の前の唇にキスをして解放して貰うか。 事はそう単純ではない。ここに幽閉されたままであれば、当然結婚式には間に合わない。 しかし、キスは……そう、キスは……

「ふふっ。無理に我慢しなくても、いいんですのよ」

間近で誘うように震える唇。 今までに見たどんな女性よりも美しい顔。 至近距離で見ているのに、どこまでも滑らかで絹のように輝く素肌。 まさに少女から女へと変わりつつあるその姿。 ほっそりとしているようでいて、たわわに実りつつある素晴らしい胸。 きゅっと細まるくびれに、悩ましい腰。 スラッと長くそれでいてしなやかに肉付いた太腿。

誘惑の塊のように見事な身体だった。

きっとどんな男でも、彼女を一目見たその瞬間に彼女へ襲い掛かってしまうに違いない。
それほど蠱惑的な容姿なのだ。

「何を迷っておられるのですか?」

結婚式の直前に、婚約者以外の女性とキスをするなんて。 凄まじい色気を発する目の前の娘から何とか意識を逸らさなくては。 脳裏に愛しい女性の姿を必死に思い浮かべて、ギリギリのところで キスを踏み止まれた。これから始まる挙式の事がなければ 例え婚約者が居ても、思わず目の前の唇にキスをしてしまったかもしれない。

「大丈夫ですわよ」

安心させるような、暖かいメイドの声が耳に入ってくる。
しかも、その優しい喋り方。彼女の言葉を聞いているだけで、何か安心できる。 ああ、心を癒すような口調の前には、つまらない心配など霞んでしまう。

「魔族とのキスならば人間ではありませんし、不貞を働いたことにはなりませんわ」

そういえば、そうなのか。
だったら、問題は無い……!?

キスしようとした瞬間に、目の端で捉えた妖しい動き。

そう、尻尾だ。 それは目の前の娘のものだった。キスをしようとした瞬間、艶々と黒く輝く尻尾が 嬉しさを表現するよかの様にフルフル動いたのだ。その先端は三角形のような形状で、 滑らかな光を放っている。明らかに、彼女は魔族の一員に違いない。 一番の問題は、この娘が”淫魔”だということだ。 淫魔とのセックスに耽った者は、身も心も吸い尽くされる定めと決まっている。 何でこの事を忘れていたんだろう。

「溺れなければ良いのですわ」

また、あの安心感に満ちた声がした。 後ろにいるメイドの声が耳元ではなく直接脳裏に響いても、不思議とは思わなかった。 だって、意識を優しく包み込むようにソフトで甘い声なのだから。

「キスは一回だけ。しかも彼女からは何も致しませんわ」

そうだ。だから大丈夫なんだ。彼女の言葉に不安感が拭い去られ、 穏やかなな安らぎに身体が満たされる。でも、何か心に引っかかる。

「ではこのまま、結婚式が終わるのをお待ちになりますか? 結婚式の間中、新郎が 式にも出ずに、密室に若い女とただ何もせずに居ただけだなんて、他の方に信じて 貰えますかしら」

そう、選択肢は他に無いんだ。ただ、やはり何かを見落としているような気がする。

「大丈夫ですわよ。この娘は王子様からなされた事にのみ、お応え致しますわ。 キスさえきちんとして頂ければ、例え短い時間であっても構わないとの事ですし」

安らかに響く彼女の言葉。どこか甘美な口調で囁かれるだけで、 一切の説明は何の抵抗感も無く心に収まる。 その明快な説明の前に瑣末な疑念などは悩むに足らない。 この事態の首謀者こそ、目の前にいる淫魔の少女だった。 どうやら結婚式前に一度でいいから俺とキスしたかったというのが理由らしい。 淫魔に気に入られた理由は判らない。だが、俺からするキス以外には何もしてこないと いうのであれば、そう、何の問題も無い筈だ。

「お急ぎになりませんと、結婚式の身支度時間が無くなりますわよ」

そうだ。メイドの言うとおりだ。一刻も早く式場に戻らないと他の皆に迷惑をかけてしまう。 メイドも淫魔も、この件を口外したりはしない。

俺はせかされるままに顔を、餌を待つ雛鳥のように可愛らしく突き出された 淫魔の唇へと近づけていった。
///// 以上 α未満版 /////



本話自体がまだ構想中の為、更新はしばらくありません。 / 目次へ戻る









管理人:鷹巣 椎茸